歯科診療室で患者さんが倒れたら その1 ショックへの対応 
本文へジャンプ 2006年6月1日更新 
ョックとは 参照文献「今日の治療指針」医学書院 P2

ショック:急性かつ全身性の循環不全により、重要臓器や細胞に十分な酸素及び栄養素が供給されない状態であり、平時の血圧にもよるが、収縮期血圧90㎜Hg以下が目安とされています。原因により4種類に分類されます。

ショックの分類と主な原因
①血液分布異常性ショック アナフィラキシー、敗血症、神経原性ショック
②循環血液量減少性ショック 出血、熱傷、体液喪失
③心原性ショック 心筋梗塞、拡張性心筋症、僧房弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、不整脈
④心外閉塞・拘束性ショック 心タンポナーデ、肺血栓塞栓症、緊張性気胸

循環の基本因子である循環血液量、心拍出量、血管抵抗のうち、何が異常かを念頭に置き、ショック一般に共通な応急処置や検査を施行すると同時に、原因を迅速に確定しその治療を行います。

ラム
神経原性ショック(neurogenic shock、primary shock): 疼痛などの何らかの引金(trigger)による血管迷走神経反射(Vaso-vagal reflex)の結果、徐脈・心収縮力の低下に起因する心拍出量の低下および末梢血管拡張による血圧低下が起こった状態。

心タンポナーデ:何らかの原因による心嚢液貯留により、心嚢腔内圧が著明に上昇した結果、特に右心系の拡張期充満が著明に制限された状態。

歯科診療室で起こりやすいと思われるショックは、疼痛や恐怖などが引き金となって起こる神経原性ショック、抗生物質・ラテックスなどが原因となるアナフィラキシーショック(喘息の重積発作含む)、心筋梗塞、誤嚥による窒息などが考えられます。

薬物アレルギーや喘息の既往、基礎疾患、投薬歴等について十分な問診を行い、問診内容をカルテ記載し、外科処置や投薬に対してはそのリスクを十分に説明し、必要なら患者さんの署名入りの同意書を作成します。

特に顔貌や体格を観察することは重要で、極端に痩せている虚弱な患者さんの場合、胸腺リンパ体質の可能性を考える必要があります。逆に50歳以上の肥満している患者さんの場合、循環器系の基礎疾患や糖尿病の有無を必ずチェックする必要があります。睡眠不足や体調不良、強度の歯科恐怖症の患者さんも要注意です。


ショックの治療方針 バイタルサインの確認を最優先します。

2006年度4月時点の松本市歯科医師会会員診療所では、パルスオキシメーター、自動血圧計、酸素、アンビューバック、救急薬品キットはほとんどの歯科医院が常備していますが、心電図モニターとAEDの両者を備えた歯科診療室の割合はまだ低く、以下の記述は現在の会員診療所の実情に合わせた内容になっています。またガイドライン2005に基づいた研修はまだ行われていませんが、ガイドライン2000に基づいた一次救急としての心肺蘇生講義と実習は全会員を対象に実施されています。もちろん将来においては、全会員診療所に心電図モニターとAED、気管挿管キットを常備し、最低でも100単位以上の心肺蘇生実習と講義を行うことを目標にしています。


以下、参照文献「今日の治療指針」医学書院 P2を改変。

呼びかけにより、意識レベルを判定しながら、5~10秒以内に気道や呼吸状態を評価する。
酸素はマスクで6~10ℓ/分投与する。
意識がないか、呼吸レベルの低下が認められたら、スタッフを集め119への通報とAEDの手配を行う。(AEDが用意してある場合)
気道を確保する。
血圧測定:ショック時の自動血圧計の計測は不正確。橈骨動脈を触れない場合で、大腿動脈か頚動脈を触知できれば血圧は40~60㎜Hg前後であり、頚動脈を触れない場合は心肺蘇生法をすぐに行う。

気道確保:頭部後屈顎先挙上法。必要に応じて気管挿管できればいいが、歯科診療室レベルではそこまで要求するのは現状では無理。
異物による気道の閉塞の場合、歯科診療室にはバキュームがあるので、咽頭部の異物を吸引できる場合もあります。

人工呼吸(2回)

心臓マッサージ(30回)心臓マッサージ30回と人工呼吸2回を5回繰り返す。

AEDが到着すれば1回電気ショックを行う。

1回通電後、または電気ショック適応なし表示後に、心臓マッサージ30回と人工呼吸2回を5回繰り返す。
 同時に他のスタッフにより、血圧、脈拍数、体温の測定、心電図モニターの装着、パルスオキシメーターの装着を平行して行います。

静脈路は末梢(正中皮静脈等)で確保し、乳酸リンゲルなどの細胞外液製剤で点滴を開始する。
その後の治療、すなわち輸液量、薬物投与などの決定はショックの原因を見極めてから行う。

ショック時の薬物投与例
アナフィラキシー エピネフリンの筋注・皮下注かゆっくり静注
敗血症 ドーパミン、ノルアドレナリン
出血性ショック カテコラミンを投与しない。

人工呼吸:人工呼吸をする前の呼吸は、いつも通りの呼吸でよく深呼吸は不要。
傷病者の胸が軽く膨らむ程度に吹き込み、1回の吹き込みに1秒以上かけて行なう。1回吹き込んだあと、傷病者の胸が軽く膨らまなかった場合、2回目の吹き込みをする前に、もう一度、頭部後屈顎先挙上法により気道確保を行なう。

出血やアナフィラキシーによるショックでは大量輸液を必要とするが、心筋梗塞では大量投与は禁忌である。

緊張性気胸に対する脱気、心タンポナーデに対する心嚢穿刺、開窓術、急性肺血栓塞栓症などに対する処置はもとより歯科領域の範疇ではない。
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