歯科診療室で患者さんが倒れたら その2 突然の意識障害への対応 
本文へジャンプ 2006年6月1日更新 
       
意識を維持するのは 参照文献「今日の治療指針」医学書院 P3その他


意識を維持する系
①脳幹網様体 reticular formation 脳幹の背側部分に散在する構造物である。まばらな細胞体の間を網目状の神経線維が結んでいるのでこの名があり、白質にも灰白質にも分類されない。呼吸および循環の中枢であり、生命維持に不可欠な機能を担っている。

網様体は延髄から中脳まで、すなわち脳幹の全体に広がり、ミクロな構造の違いからいくつかの小部分に分けられる。網様体から出た線維は、脳神経の核と間脳の諸核の両方に達している。

網様体に入る線維では、脊髄を通ってきた痛覚線維のほか、視神経・内耳神経・三叉神経に由来する線維が視覚・聴覚・前庭覚(いわゆる平衡感覚)・顔面の触覚の情報を伝える。そのほか、大脳皮質、小脳、赤核、淡蒼球からの線維も網様体に入る。

網様体から出る線維は、脊髄、間脳の視床、延髄の迷走神経核、疑核・孤束核(舌咽神経の核)などに向かう。脊髄に向かった線維は運動機能の調節に関わる。視床に向かった線維は覚醒状態に関わる。迷走神経核、舌咽神経核に向かった線維は、それらの脳神経の調節を介して、呼吸と循環の調節に関わる。

網様体は主に迷走神経を介して呼吸・心拍数・血圧を調節する中枢である。この機能は生命維持に不可欠なので、網様体が傷つくことは直ちに命に関わる。脳幹が生命維持の中枢と言われる理由の多くは、脳幹の全体に広がる網様体が負っている。

網様体は視床を介して覚醒と睡眠の調節にも深く関わっている。痛みで目が覚めるなどの反応は、痛覚線維から伝わった刺激が網様体に入り、網様体の活動を促して意識や運動機能を活発にすると説明される。この様子は脳波の測定により観察できるが、詳しい機序には不明な部分も多い。

Werner Kahle、長島聖司・岩堀修明訳『分冊 解剖学アトラスⅢ』第5版(文光堂、ISBN 4-8306-0026-8、日本語版2003年)

この項目は、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』“網様体”より引用転載。
②脳幹や前脳基底部の神経核群 脳幹網様体のノルアドレナリン神経が前脳基底部のコリン作動性神経を活性化し、それが大脳皮質を賦活化して覚醒させる。 
←参照:http://physi1-05.med.toho-u.ac.jp/system_neuro/noradrenalin/n4/n4.html
③視床特殊核 脳幹網様体からの投射を受け、視床皮質ニューロンを介して、大脳皮質を覚醒させ、レム睡眠時の皮質脳波の覚醒にも関わる。
④びまん性視床皮質投射線維
⑤大脳皮質

意識障害はこれらの意識を維持する系の障害であり、意識障害を起こす病変は後頭蓋窩レベルの限局性病変、後頭蓋窩レベルのびまん性病変、テント上レベルのびまん性病変、後頭蓋窩レベルとテント上レベルの両方にわたるびまん性病変のいずれかであると考えられます。
ラム
間脳、中脳、橋、延髄を一括して脳幹と呼ぶ。

前脳基底部basal forebrain 目の奥にある脳の表面部分。
古皮質。
脳幹網様体から大脳皮質への上行性の投射には背側経路(視床非特殊核を経由するルート)と腹側経路(前脳基底部を経由するルート)がある。
前脳基底部のマイネルト基底核からコリン作動性神経(アセチルコリンを伝達物質とする神経)が広範囲の大脳皮質に連絡し、皮質活動を賦活し、意識レベルを調節している。
また前脳基底部にはレム睡眠と関連の深い神経も含まれている。


小脳テント:大脳半球と小脳の間の大脳横裂には脳硬膜が進入しているがこれを小脳テントと呼ぶ。小脳と脳幹は後頭蓋窩に収納され、小脳テントにより大脳と境されている。小脳と大脳はテント切痕と呼ばれる隙間により連絡している。



発症機転
急性発症の意識障害 外傷・血管性障害・失神・低血糖・低ナトリウム血症・薬物中毒
亜急性の意識障害 脳炎・脳髄膜炎
慢性意識障害 脳腫瘍・変性疾患
低ナトリウム血症:腎臓が水分を排出する能力を超えて、大量に水を飲んだり、輸液を受けた場合に血液中のナトリウム濃度が非常に低くなります。

摂取水分量が正常でも、腎不全患者では低ナトリウム血症が起こります。心不全や肝硬変でも起こり、また慢性の下痢で体液が慢性的に失われている場合にも起こります。

抗利尿ホルモン(バソプレシン)分泌異常症候群(SIADH)でも、脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモンの量が多すぎるために腎臓からの水分の排泄が抑えられ低ナトリウム血症が起こります。
痛み、ストレス、運動、低血糖は下垂体を刺激しバソプレシンを分泌させます。降圧剤のクロルプロパミドや癲癇の治療薬であるカルバマゼピンや抗精神病薬やアスピリン、イブプロフェン等の鎮痛剤、肺がんなども抗利尿ホルモンの分泌を促します。

アジソン病でも副腎の働きが悪いために、尿にナトリウムを排出しすぎるために起こります。

症状:人格の変化、軽眠、錯乱状態等の神経症状、筋肉の痙攣、発作、昏睡、死

治療:デメクロサイクリンやサイアザイド系利尿薬等の薬物や点滴を使って、血中ナトリウムをゆっくり上昇させる。急に上げると不可逆的な脳損傷を起こす。


メルクマニュアル家庭版より引用

 
考えられる責任病巣
神経学的局所所見と意識障害が合併している場合 後頭蓋窩レベルの脳出血・脳梗塞・脳挫傷・脳腫瘍などの限局性病変が疑われる。
テント上レベルの限局性病変でも、脳ヘルニア・痙攣発作などで間接的に意識を維持するシステムを障害している場合もある。

脳ヘルニア:後頭蓋窩レベルの限局性障害
痙攣発作:後頭蓋窩レベルのびまん性病変
神経学的局所所見を伴わない意識障害 びまん性病変である広範な外傷・血管性障害・代謝性中毒性障害を疑う。
髄膜刺激症状を伴う意識障害 びまん性に後頭蓋窩レベルやテント上レベルを傷害するくも膜下出血・髄膜脳炎・脳炎が疑われる。
神経学的局所所見も髄膜刺激症状もない意識障害 低血糖・低ナトリウム血症・糖尿病性昏睡・肝性昏睡・薬物中毒


神経学的所見の一例: 
①瞳孔の大きさ 瞳孔径0.5mm以上の差を瞳孔不同。

②対光反射の左右差 

③片麻痺の有無

④共同偏視(一側への眼球の強い偏位) 大脳皮質から脳幹の核に至るまでの間で障害されている。病変側をにらむ。

片麻痺+
反対側の瞳孔散大・対光反射喪失
テント上病変の脳ヘルニア
片麻痺+
反対側への共同偏視
テント上の脳出血などの破壊性病変
片麻痺+同側への共同偏視 頭蓋内器質的疾患による痙攣発作などの刺激性病変
⑤角膜反射の有無
⑥三叉神経運動機能検査
⑦臭覚検査

⑧口蓋の挙上の左右均等性
⑨嗄声
⑩舌の萎縮線維束収縮,麻痺(病変側へ偏位する)
⑪眼球頭反射の喪失 頭を左右にふると眼球が反対側に動く。
髄膜刺激症状:頭痛と項部強直(仰向けに寝て、頚部を前に屈曲させた時、首の筋肉が硬くなり強直して曲がらない状態。髄液にくも膜下出血の血液が混じったり、細菌、ウイルスによる髄膜炎に罹患したりすることが原因。。
 意識障害に対する初期治療

気道、呼吸、循環、神経所見を評価し安定化をはかる。

意識障害があり、グラスゴーコーマスケール(GCS)で合計点8以下、ジャパンコーマスケール(JCS)でⅡ-20以下の場合、自発呼吸が維持されていても誤嚥の危険があり、器官挿管の必要性が考慮される。酸素投与は、臓器や組織の障害を防ぐのに有効である。自発呼吸が十分でなければ人工呼吸が必要になる。

 
低血糖による意識障害

静脈確保のあとにブドウ糖とビタミンB1を投与する。

下記のいずれかを用いる。
①メタボリン注 100㎎静注
②ブドウ糖 10g ゆっくり静注

痙攣発作

全般性硬直性間代性痙攣のときには処置は全くできないことが多く、昏睡体位にして誤嚥や外傷を防止する。重積発作時は、低酸素血症や過剰放電による障害を防ぐために、薬剤投与で発作を終わらせる。外見上の痙攣が終わっても脳の過剰放電が続いていることがあり、Burn out状態になることがあり、薬剤投与が有用なことがある。呼吸抑制に対しては気道確保、人工換気の備えをしておく。

下記のいずれかまたは適宜組み合わせて用いる。

①セルシン注 0.2~0.5㎎/㎏ ゆっくり静注、またはダイアップ座薬 0.4~0.5㎎/㎏ を挿肛。

②ジフェニルヒダントイン注 10~15㎎/㎏ ゆっくり静注

③フェノバルビタール注 2~8㎎/㎏ 筋注または経口

譫妄状態

安全で快適な環境をつくり、単純な言葉で話しかけながら診療を進める。家族や介助者の協力が有用である。

下記のいずれかまたは適宜組み合わせて用いる。
①セレネース注 1~5㎎ ゆっくり静注、または筋注 1日8~12㎎まで

②セルシン注 2~5㎎ ゆっくり静注、または筋注 1日5~40㎎まで

意識障害に伴う誤嚥

意識障害に伴う誤嚥症候群には、酸性胃液の誤嚥による化学性肺臓炎や二次性の細菌性肺炎がある。誤嚥に伴う細菌性肺炎は症状が明らかになるのが1~2日後のことが多いので、誤嚥直後から抗菌薬の予測的投与を考慮する。口腔や咽頭の細菌叢が起炎菌になるので多種類の混合細菌感染を起こす。

下記のいずれかを用いる。

①ビクシリン注 1回1g 1日3~6回 点滴静注

②ユナシンS注 1回1.5g 1日2~4回 点滴静注

グラスゴーコーマスケール(GCS)

・グラスゴー・コーマ・スケール(GCS:Glasgow Coma Scale)
意識障害の評価方法です。
開眼、発語、運動機能の3項目をそれぞれに評価して
E4、V5、M6などのように表すとともに、3項目の点数を
合計すると3~15点となり、これによって意識障害の重症度を
表します。

ジャパン・コーマ・スケール(JCS)では、点数が大きいほど
意識障害が重症でしたが、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)
では、合計した点数が小さいぼど意識障害は重症です。

E:開眼(Eye Opening)
4点 自発的に
3点 音声により
2点 疼痛により
1点 開眼せず

V:発語(Best Verbal Response)
5点 指南力良好
4点 会話混乱
3点 言語混乱
2点 理解不明の声
1点 発語せず

M:運動機能(Best Motor Response)
6点 命令に従う
5点 疼痛部認識可能
4点 四肢屈曲反応、逃避
3点 四肢屈曲反応、異常
2点 四肢伸展反応
1点 まったく動かず

ジャパンコーマスケールJapan Coma Scale

刺激しなくても覚醒している状態
1: だいたい意識清明だが、いまひとつはっきりしない
2: 時・人・場所がわからない
3: 自分の名前、生年月日がいえない

刺激すると覚醒する状態 (刺激をやめると眠り込む)
10: 普通の呼びかけですぐに目を開く
20: 大きな声をかけたり、体をゆさぶると目を開く
30: 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、なんとか目を開く

刺激しても覚醒しない状態
100: 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200: 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる
300: 痛み刺激にまったく反応しない

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