№94「オーラルマネジメントとウェルエージング」その1 
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 №94「オーラルマネジメントとウェルエージング」その1

 厚労省がまとめた「平成18年簡易生命表」によれば、平成18年の日本人の平均寿命は、男79歳、女85.81歳になっています。男女とも脳血管疾患の死亡率は減っていますが、悪性新生物、つまり癌の死亡率が増加しているのが特徴です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life06/index.html



(内閣府 「国民生活白書」http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h18/01_honpen/index.htmlより転載)


(長野県後期高齢者医療広域連合「広域計画のページ」より引用。
http://www.koukikourei-nagano.jp/keikaku/kouiki_keikaku.htm


 昭和30年には、男63歳、女67.75歳だったので、この53年間に、男性では16歳、女性では18.06歳、平均寿命が伸びたことになります。

平均寿命が伸びた主な要因は、医療制度の充実、特に乳幼児死亡率の低下や経済的実力の向上に伴う栄養摂取の改善、社会の安定、特に1952年4月28日の講和条約発効以来、56年間日本が戦争を起さず、平和が保たれ続けたことが大きく寄与しているものと考えられます。

特に長野県では、平成17年の都道府県別簡易生命表によれば、男性の平均寿命が79.84歳で全国一位、女性が86.48歳で全国第4位であり、信州が「長寿県」であることを示すとともに、総人口が減少に転じたのにもかかわらず75歳以上の後期高齢者数の増加傾向が続き、徐々に少なくなる実働世代が社会全体を支える構造変化が進んでいます。


(長野県後期高齢者医療広域連合「広域計画のページ」より引用。
http://www.koukikourei-nagano.jp/keikaku/kouiki_keikaku.htm


 一方、単に寿命が長いだけでなく、健康で社会とのつながりを保ちつつ、自立して生活することができる「健康寿命」が長いことが重要であり、充実した晩年を過ごすためには老いを受け入れるだけでなく、健康に老いる工夫が必要になります。

 例えば健康寿命を「健康上の問題で日常生活に支障がない無障害者でいる期間」とすれば、2005年のWHOのデータでは、日本の健康寿命は男、71.4歳、女75.8歳であり、男性が約6.5年間、女性が約9年間の晩年における不健康期間が見込まれます。

つまり人生の8~9%が不健康期間であり、場合によっては他者からの介護を受ける必要がある期間となります。

 
(内閣府 「国民生活白書」http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h18/01_honpen/index.htmlより転載)



平均寿命が長くなる一方、核家族化の進行や未婚者の増加により社会構造の変化が進み、高齢者の家族環境は大きく変化しています。

高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯が増えるにつれ、また高齢者の独居志向が強まるにつれて、この平均6~9年の間に出現する介護期間にどう地域社会が対応していくのかが大きな課題になっています。

 ライフサイクルは、知識を吸収し、経験や感動体験を積む若年期、吸収した知識や経験を発揮する青年期と壮年期、人生の果実を楽しむ熟年期、晩年期に分けて考えられます。

「口腔ケア」及び、後述します「オーラルマネジメント」が熟年期と晩年期、あるいは介護を必要とする障害期間の生活の質を維持する役割は大きく、また医学的にも重要な意義を持つことが評価され、近年、益々注目を集めています。

最近、「ウェルエージング(well aging)」、つまり健やかな老いを迎えるための医学、未病を見出すための医学、潜在している病を見出し早期に予防・治療する医学が脚光を浴びています。
(参照したホームページ「日本ウェルエージング協会」http://www.wellaging.ne.jp/

「ウェルエージング」は筋年齢、骨年齢、生活年齢などの検査に加え、どんなライフスタイルを送っているかまで検査し、認知症の初期などを発見し、早期に予防することなどで、生涯にわたり健康で美しく、より良く年をとることを支援する医学です。

「ウェルエージング」は老いることを受け入れ、加齢に抵抗することなく、上手に健康で充実した老いを楽しむことを支援する考え方です。

「口腔ケア」は口腔衛生を維持する能力や嚥下能力の衰えにもかかわらず、「ウェルエージング」を維持する重要な役割を果します。


○ 「口腔ケア」の必要性

8020推進財団発行の「入院患者に対するオーラルマネジメント」によれば、「口腔ケア」(オーラルケア oral care)は狭義と広義の2つの枠組みで捉えるべきだとされます。

・ 狭義:口腔衛生管理に主眼をおいた口腔保険指導、口腔清掃、義歯清掃を中心とするケア
・ 広義:狭義の口腔ケア+口腔機能(摂食、咀嚼、嚥下、構音、唾液分泌など)の維持・回復に主眼をおいた予防、歯科治療、リハビリテーションのあらゆる段階を包括したケア
(「入院患者に対するオーラルマネジメント」p6)

本年、7月27日(日)に松本市歯科医師会主催で行なわれます予定の「市民公開講座」の講師の一人である米山武義氏(米山歯科クリニック院長)によれば、老健施設に入居している高齢者に対する口腔ケアを徹底的に行なうことにより、肺炎の発生率を有意に低下させることができるとしています。

417名のナーシングホーム入居者を対象に、無作為に二つのグループに分けて、一方のグループには看護師や介護者による食後のブラッシングとポビドンヨードによる綿花での口腔内清拭を行い、さらに歯科医師と歯科衛生士により一週間に一度、専門的清掃を行ないました。

その結果、口腔ケアを受けたグループでは、肺炎の罹患、発熱、肺炎が原因の死、日常生活活動性(ADL: activity of daily living)、認知機能の諸点で、明らかな改善が認められたとしています。
(Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes参照。
http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=13559724

なお下記の一般市民を対象とする講演会が松本市にて予定されています。

興味のある方は是非、ご参集ください。また前日、土曜日の午後には松本市歯科医師会会館にて専門家向けの講演会が開催されます。(医療関係者対象)いずれも聴講無料ですが、駐車場に限りがあるますので、周辺駐車場をご利用になるか、公共交通機関をご利用ください。


《日時:7月27日(日曜日)午前10時~11時30分
会場:松本市Mウィング6階 入場無料
講演その1:「口からはじまる介護予防  ―口腔ケアで寝たきり防止―」
講師:菊谷 武 先生(日本歯科大学 准教授)
口腔介護・リハビリテーションセンター センター長
講演その2:「 口は長寿の門  ―口腔ケアは肺炎予防の要―」講師: 米山 武義 先生(老年歯科医学会理事、日本歯科大学、東京歯科大学、浜松医科大学非常勤講師、
松本歯科大学臨床教授、静岡県開業)
後援:松本市、松本市医師会、松本薬剤師会、市民タイムス、テレビ松本
お問い合わせ先 松本市歯科医師会事務局 33-2354》

《日時:7月26日(土曜日)午後3時~5時30分
場所:松本市歯科医師会館 4F 聴講無料
第一講演「摂食・嚥下機能から見た栄養支援」
講師:菊谷 武先生
第二講演「我々歯科医療人はどのように口腔ケアを活かすべきか」
講師:米山 武義先生》


「口腔ケア」は嚥下性肺炎の予防につながり、全身状態をも改善し、穏やかで充実した晩年を送る助けになります。
また外科手術後の感染予防や発熱予防、離床期間の短縮効果も期待されています。


○「オーラルマネジメント」とは何か?

 8020推進財団によれば、「オーラルマネジメント」とは、

1) 狭義の口腔ケア
2) 口腔ケアを実施しやすい環境を整備・提供するための歯科治療
3) 口腔機能訓練(嚥下訓練、摂食訓練)
4) 患者・家族への保健指導(口腔保健指導)

の4つからなり、さらに口腔ケアの必要度、難易度、緊急性などを考慮した総合的な判断や、他の職種との連携の構築や調整を含めたより広い概念であるとしています。

詳細については別稿に掲載する予定でいます。

参考文献:
1.8020推進財団発行 「入院患者に対するオーラルマネジメント」主任研究者/寺岡加代 分担研究者/岸本裕充 田中義一 角町正勝 内藤克美 大西徹郎 宮城嶋俊雄 瀧本庄一郎 大石善也 足立三枝子 上原弘美 大西淑美 塚本敦美

2.デンタルハイジーン別冊2000「介護保険はじめの一歩」吉田春陽 正田晨夫
3.歯科衛生士 2006 vol.30 「ケアプランニングのための情報収集と分析」
4.「口腔にみられる病原体の光と影」 佐藤田鶴子編集 永末書店
5.「高齢者歯科」全国歯科衛生士教育協議会 監修 医歯薬出版
6.「口腔から実践するアンチエージング」斉藤一郎 編著 医歯薬出版
7.「介護予防と口腔機能の向上」編著 新庄文明 植田耕一郎 牛山京子 大山篤 菊谷武 寺岡加代 
8.「介護予防のための口腔機能向上マニュアル」編著 菊谷武 共著 西脇恵子 田村文誉 建帛社(けんぱくしゃ)