82「移民の季節」多民族国家としての日本の将来
本文へジャンプ 6月6日 
 
82「移民の季節」多民族国家としての日本の将来



 少子高齢化により縮小する日本の将来に対する最もドラスティックな劇薬は移民政策の転換だと思われます。

平成19年9月9日、フィリピンと日本の間で、看護・介護分野の労働者の受入れを含む日比経済連携協定(日比EPA)が署名され、12月6日に国会で承認されました。不足する看護師問題を解決するため、フィリピン人看護師・介護福祉士候補者の受入れが開始されることになっていました。

しかし、その後、フィリピン看護協会の日比EPAに対する反対意見などがあり、フィリピン上院での批准は順調に推移していません。

同協定の締結が進められた背景には、日本では2010年に看護師が1万5000人不足するとの試算があるなど、日本の超高齢化の進行に伴い、ケアする側の人材が構造的に不足している事情があります。

社会保障費の毎年2200億円削減シーリングの下で、過酷な労働条件を理由に、看護師も介護福祉士も、就職者の40%が数年以内に離職していきます。現在、看護職の資格を持ちながら働いていない人の数は約55万人に達し、これは全看護職数の4割以上に該当しています。

ただ伝統的に、日本国内には治安問題を懸念する声が強く、外国人労働者の大量受け入れには慎重な意見が多いため、同協定もフィリピン人看護士にとっては極めてハードルの高い内容になっており、本気で日本側に外国人看護士を受け入れる気持ちがあるのか疑問視する向きもあります。

日比EPAによれば、日本側の受け入れ機関は国際厚生事業団が唯一担当し、同事業団が国内の病院及び介護施設の求人希望と、フィリピン側の海外雇用庁(POEA)の選抜した候補者を調整し、候補者は受け入れ先である病院や介護施設と雇用計画を結ぶことになります。

フィリピンから来日した看護師や介護福祉士の候補者は、半年間、経済産業省の外郭団体である海外技術者研修協会(AOTS)において日本語研修を受けた後、病院や介護施設で研修を受けます。(=就労)

候補者の条件は、看護師はフィリピンにおける看護師の有資格者で3年間の実務経験がある者、介護福祉士の場合、フィリピンの技術教育技能開発庁(TESDA)の認定した介護士(caregiver)であることに加え4年制大学卒業者または看護大学卒業者、および4年生大学卒業者のたどる2つのコースに分かれています。

また看護士師希望者は日本在住3年間のうちに、日本語で行なわれる日本の看護師の国家試験に合格し、介護福祉士の場合、4年間の間に介護福祉士の国家試験に合格しなければ帰国しなければなりません。

特に介護福祉士候補者は本人が受験しても合格率が50%程度の介護福祉士の試験に、来日3年間の就労の後に、1回の国家試験に合格しなければなりません。

事実上、英語を母国語とする者が、就労しながら日本の国家試験に合格することはかなり困難が予想され、一時的な下働きとしての都合の良い労働力を確保するだけの結果に終り、日本による資本力を利用した労働力の搾取にすぎません。

フィリピン看護師協会のリア・プリミティバ・サマコーパキス会長は「日比EPAはフィリピン人看護師のプロフェッショナルとしての資格を充分認めず、日本の職に無意識に誘惑された者を、酷使・差別にさらしかねないもの」として批准に強く反対しています。

また「日本政府は、フィリピン人看護師の労働・受け入れ条件を整える前にまず、日本人看護士の労働条件の改善を図るべきです。」とも感想を述べています。

(「なぜ看護師たちは日比EPAに反対しているのか」http://japan.pinoy-abroad.net/jp/pna_statement.htmより引用。)

フィリピン看護師に対する不平等条約を見ると、日本の外国人労働者に対する姿勢は、弱い立場の労働者の都合の良い使い捨てであると非難されても仕方のない部分があります。

少子高齢化問題は日本の将来を危うくする最大の危機だと考えていますが、今後、看護師・介護福祉士の例で見られるように、労働条件の厳しい分野で社会を支える人材は払底し、高齢者や弱者を支える社会機能に支障が生じる場面が増えていくものと予想できます。

しかし少子高齢化は日本など先進国だけの特殊な問題であり、アジア全体あるいは世界全体で考えれば、人口圧力は年々増大し、資源と食料、水、職と教育、安全を求める声は高まるばかりです。

国内で深刻化する格差構造を、アジアに広げるだけの労働者対策では、外国人労働者と共存することはできず、いずれ日本が行き詰る結果になることでしょう。

日本自体が教育や就労の機会を拡大し、魅力ある国家・市場に再生しなければ、21世紀の将来像を描くことはできません。

ただ外国人の脅威に怯え、「日本人」だけの狭隘な価値観と慣習のなかに閉じこもって生きようとしても、遅かれ早かれ世界がそれを許さないときがやってくるはずです。

現在、我国の政界は「二世、三世、四世」だけが跋扈する特殊な階級社会に変貌してしまっていますが、世襲制の弊害は、日本の政治力の低下という形で深刻な弊害を招いています。

陽だまりのような既得権のなかに安住することに慣れすぎた「日本人」の将来には暗澹とした闇が漂っています。歯科医療においても言えることですが、私たち自身がもっと強い自立できる日本人になることが求められています。

新しく足を入れる川の水は冷たいのですが‥

I'm crossing you in style some day.