bT7骨がんや骨粗鬆症の治療を受けている人が抜歯されるときの注意
本文へジャンプ 4月24日 
 



骨がんや骨粗鬆症の治療を受けている人でビスホスホネートを投与されている方は、抜歯やインプラント治療の前に必ず、歯科医師へお薬の名前と投薬期間をお伝えください。

 以前聞いた話ですが、アメリカでは乳がんよりも骨粗鬆症のほうが女性に恐れられているといいます。つまり乳がんは定期的なセルフチェックと専門家によるヘルスチェックで初期のうちに発見すれば、治療により健康な人と変わらない生活を送ることができ、タキソール(パクリタキセル)やハーセプチン(トラスツズマブ)、あるいはフェマラなどの抗アロマターゼ剤などの新薬も開発されています。

しかし骨粗鬆症は骨密度が下がっていることを指摘されても、すぐに安全で有効な回復手段がなく、腰が曲がったり、寝たきりになったりしやすく、美容と活動性の両面を障害するために、充実したシルバーエイジを送る妨げになってしまうからです。

重量挙げの世界記録保持者であるアンドレイ・チェメルキン選手(ロシア)は、ジャークで260kgのバーベルを頭上に持ち上げます。この重量を支えるのは筋肉と燐酸カルシウムが沈着してできた骨のわけですが、この強固な骨も、赤ちゃんのときから一つ一つの骨細胞(オステオサイトosteocyte)が徐々に作り上げたものです。

硬く見える骨も、絶えず新陳代謝が盛んに行なわれていて、骨をつくる骨芽細胞(オステオブラストosreoblast)と破骨細胞(オステオクラストosteoclast)がカップリングして同時に働き、その中身は常に入れ替わっています。

骨の硬さの本体は、ヒドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムの結晶であり、骨芽細胞は膠原線維と特殊な糖蛋白を分泌するとともに、骨芽細胞の突起の破片にカルシウムやリンが集まって、結晶核となり、ヒドロキシアパタイトの結晶を育てて骨質をつくります。

骨細胞はやがて自分の周りに作り出した骨質のなかに埋もれてしまいますが、周囲の骨細胞と突起で連絡しあい、血管からの栄養を受けている限りは、その骨は生きています。

インプラントを顎骨に植えるときは、単にリン酸カルシウムの結晶中に埋めているわけではなく、これら骨細胞のネットワークを分断しながら手術を行なっているわけで、骨が生きている組織であることを常に念頭に置く必要があります。

一方、破骨細胞のほうは、骨にかじりつき、たくさんの突起から酸や水解酵素を分泌して骨のミネラルを溶かし、有機質を吸収し、骨をむさぼり食い続けます。

このように破骨細胞による破壊と骨芽細胞による造骨がたえず微妙なバランスの中で行なわれているのが骨の実体です。

破骨細胞の活動は上皮小体が分泌するパラトルモンで活性化し、逆に甲状腺のC細胞が分泌するカルシトニンで抑制されています。(「新細胞を読む」山科正平 BLUE BACKSより引用)

骨粗鬆症は『骨強度の低下により骨折リスクの増加を増す骨疾患』ですが、原因となる病気のあるものとないものに大別することができます。

(1) 原発性骨粗鬆症 @退行期骨粗鬆症 @閉経後骨粗鬆症 A老人性骨粗鬆症
            A特発性骨粗鬆症(妊娠性粗鬆症など)

(2) 続発性骨粗鬆症 @内分泌疾患 性腺機能低下症、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症
            A代謝性疾患 糖尿病、ホモシスチン尿症、低アルカリフォスファターゼ症
            B栄養性疾患 蛋白質欠乏、ビタミンA過剰、ビタミンD過剰、カルシウム摂取不足、壊血病
(3) 薬物 コルチコステロイド、メソトレキセート、ヘパリン
(4) 不動性 全身性(長期の寝たきり、宇宙飛行、対麻痺)
        局所性 骨折後など
(5) 先天性 骨形成不全症 Marfan症候群
(6) 慢性炎症性疾患 関節リウマチ、(歯周病※1)
(7) 消化器疾患 慢性肝障害、胃切除後

※ 1最近、歯周病があると骨粗鬆症が起こりやすいと言われています。

骨粗鬆症の90%は閉経後や加齢により生じる退行期骨粗鬆症だと言われています。
(講義録 内分泌・代謝学 寺元民生・片山茂裕 著 MEDICAL VIEWより引用)

閉経後骨粗鬆症はエストロゲンの低下により、IL-1(インターロイキン1)、IL-6、TNF-α(腫瘍壊死因子α)、PGE2(プロスタグランディンE2)などの骨吸収を促すサイトカインの産生が増えるとともに、骨の吸収抑制因子であるOPG(オステオプロテジェリン)の産生が低下するために起こります。したがって血液中のエストロゲン濃度を保てば骨粗鬆症は防げるのですが、女性ホルモン補充療法には発ガン性を高めるリスクがあるのが問題です。(⇒乳がんになるか骨粗鬆症かの選択)

老人性骨粗鬆症は主に老化に伴い、骨芽細胞の分化や機能が低下するために起こります。老化によりIGF-1(インスリン様成長因子1)、TGF-β(トランスフォーミンググロースファクターβ)などの成長因子の産生が少なくなることや、腎臓の副甲状腺ホルモンへの反応が悪くなり、活性型ビタミンDの産生が抑制され、腸管からのカルシウム吸収が低下することが原因になっています。

この他、慢性関節リウマチの治療などで、長期間ステロイド療法を受けている場合も骨粗鬆症が進行します。

『近年,二重エネルギーX線吸収法(DXA)などで精密に骨量が測定できるようになった結果,日本の総人口の10%弱,すなわち約1000万人が骨粗鬆症で、現在は症状が出なくても,いずれ腰痛や骨折を起こす危険が大きいと言われています。危険の程度を厳しく予測するかどうか,つまり,どこまで骨量が減少すれば危険とするかによって多少変わってきますが,骨粗鬆症予備軍まで含めると2000万人に達するかもしれません。』(骨粗鬆症財団のホームページより引用。http://www.jpof.or.jp/content/frame_form02.html

高齢者が寝たきりになる原因の20%が骨粗鬆症による、大腿骨などの骨折だと言われています。

腰や膝の痛み、脊椎の圧迫骨折、猫背や腰が曲がるなどの骨格の変形、身長低下、骨折、末梢神経障害、頭痛、肩こり、胃・食道逆流、腹部膨満、便秘、頻尿、息切れ、筋力低下、歩行障害、関節拘縮などの色々な症状に患者さんは苦しみます。

骨粗鬆症の予防としては、幼児期から思春期にかけてミネラルやカルシウムを十分に摂取して、太陽の下でよく身体を動かすことが大切です。

喫煙やお酒の飲みすぎに注意し、歯周病もしっかりと治療することも骨量を減らさないために重要です。

治療は、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて行なわれます。

薬物療法で、従来投与されてきたエストロゲンや活性型ビタミンDに加えて、近年登場したのが、ビスホスホネートや選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)です。

ビスホスホネートは強力な骨の代謝抑制作用を持ち、骨量を増加させ、骨折を予防しますが、最近、その副作用について重大な警告が発せられました。

 平成18年10月27日、厚生労働省医薬食品局は骨粗鬆症治療薬に関する新たな「使用上の注意改訂情報」を指示しました。

○対象薬品名:
 骨吸収抑制薬(ビスホスホネート系)・アレンドロン酸ナトリウム水和物<経口剤>,リセドロン酸ナトリウム水和物(フォサマック錠,ボナロン錠,ベネット錠,アクトネル錠)

アレンドロン酸ナトリウム水和物<注射剤>,インカドロン酸二ナトリウム(テイロック注,オンクラスト注射液,ビスフォナール注射液)

エチドロン酸二ナトリウム(ダイドロネル錠)

ゾレドロン酸水和物,パミドロン酸二ナトリウム(ゾメタ注射液,アレディア注)

[重要な基本的注意]
 「本剤を含むビスホスホネート系薬剤による治療を受けている患者において,顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれることがある。報告された症例のほとんどが抜歯等の歯科処置や局所感染に関連して発現しており,また,静脈内投与された癌患者がほとんどであったが,経口投与された骨粗鬆症患者等においても報告されている。リスク因子としては,悪性腫瘍,化学療法,コルチコステロイド治療,放射線療法,口腔の不衛生,歯科処置の既往等が知られている。本剤の投与にあたっては,必要に応じて適切な歯科検査を行い,本剤投与中は侵襲的な歯科処置はできる限り避けること。また,患者に十分な説明を行い,異常が認められた場合には,直ちに歯科・口腔外科に受診するよう注意すること。」と改め,
 [副作用]の「重大な副作用」の項に
 「顎骨壊死・顎骨骨髄炎:顎骨壊死・顎骨骨髄炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止するなど,適切な処置を行うこと。」を追記する。

つまり骨がんや骨粗鬆症の治療のために、何年かビスホスホネート系の薬物投与を受けている患者さんの抜歯や骨を侵襲する手術を行なった場合に、骨が露出したり、腐ったりする事故が発生することがあるわけです。

 ビスホスホネートは骨粗鬆症治療の第一選択薬であり、多くの患者さんが治療に使っています。

歯科医師にビスホスホネート薬剤投与の情報が正しく伝わっていない場合は、抜歯やインプラント手術を行った後に、重大な骨の病気が引き起こされる可能性があります。

骨粗鬆症の治療を受けておられる方や骨がんの治療を受けられている方、また頭頚部への放射線治療(ラジエーション)を受けた経験のある方は、歯科医院での手術計画を立案する前に必ず、投薬歴の詳細資料を歯科医師に教えてあげてください。

ビスホスホネート自体は骨粗鬆症に苦しむ患者さんが長年待ち望んでいた効果の高いお薬ですから、歯科治療に際して基本的な注意さえ守れば、安全に使用することができます。

ご不明の点は、かかりつけの歯科医師か長野県歯科医師会へお尋ねください。

個人的には、若い女性は少しふっくらしているくらいが自然な美しさがあると思っています。無駄で危険なダイエットに熱中するよりも、適度な運動とバランスのとれた食生活で何でもできる人生を選択するほうが、より美しい生き方だと思いませんか?

参考文献:
1.「新細胞を読む」山科正平著 BLUE BACKS
2.「講義録 内分泌・代謝学」 寺元民生・片山茂裕 著 MEDICAL VIE
3.GEORGE THOROGOOD "Bad To The Bone"