2017年8月26日
     165「松本市長への手紙
 
  松本市中心市街地都市計画ロードマップへの疑問

テクノロジーが社会を変え、気がつくと生き方を変えていきます。

したがって都市政策を論ずるとき、技術と社会の未来予測が必要不可欠になります。それ故、現状の技術と社会システムだけで論じた都市計画はうまくいかない可能性が大きいと思います。

直近の10年間の間にハイブリッド車が普及し、HVの発展型であるPHV(プラグインハイブリッド)やEV、レンジエキスパンダーつきのEV、FCV(燃料電池車)が登場しています。従来は2030年になってもエンジン車の割合が70%以上で、EVなどの割合は思ったより伸びないとされていました。しかし先日、フランスに続いてイギリスも大気汚染対策として、2040年までに、ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると発表しました。
深刻な大気汚染が問題になっている中国も、自動車の排ガス規制を強化し、EVやPHV、FCVの生産目標を義務づけ、2018年から、自動車メーカー各社に対し、2020年に新エネ車の生産台数を市場全体の7%に相当する200万台超、30年には40%の1500万台以上に引き上げるように指導しています。社会的コンセンサスが得られなければ施策を実行できない日本と異なり、実質一党独裁である中国では、党が命令を下せば、社会改革が一気に進むため、ハイスペックなEVが中国の自動車の主流になる日は近いかもしれません。アメリカを含めた主な自動車市場で、EV化が進めば、トヨタや日産やホンダも生き残るためにはEVへのシフトを進めざるを得ません。

EVには航続距離や充電時間の制約、発電所での炭素発生という問題があり、低炭素化社会の実現のためにはFCVが有利とされていますが、しかし現状ではFCVは日本だけのガラパゴス技術になりそうな懸念があります。問題の大きいEVも固体電解質や新材料の電極などバッテリーの技術的なブレークスルーが起きれば航続距離がガソリン車並みに延びます。またEV普及が進み、規格の国際標準化が達成されれば、予め充電してある蓄電池またはキャパシターのパッケージをスタンドで交換するシステムが予想でき、充電時間は現在のガソリン給油より短くなります。またまだ夢物語りである核融合発電などの実現で発電所の低炭素化が達成できればEVの弱点はほぼ解消できるかもしれません。

EVには自動運転化となじみやすいというメリットがあります。機構が単純なため、IoT:Internet of Things(モノのインターネット)化がガソリン車より実現しやすいものと思われます。
自動運転車の技術的な達成は近いけれども、社会のコンセンサスを得ることと、道路のスマート化が遅れるために完全自動運転社会の実現には50年が必要だという意見が大勢を占めていますが、果たしてそうでしょうか?確かに現在の日本では自動運転車が主流になるための法整備やコンセンサスの実現は難しいでしょうが、ここでも巨大市場である中国の動向が鍵になります。短期間で先進国となって、アメリカに対抗するかアメリカを凌駕する覇権国家を目指す中国は一帯一路経済圏などの野心的な政策を唱道・推進しています。急上昇する中国国内のエネルギー需要への対策として低炭素化社会の実現と交通インフラの効率化がもっとも必要とされる国家はむしろ現行の先進国ではなく中国です。中国がもし完全自動運転車社会への転換を決定すれば、それに対応しない自動車メーカーはメインプレーヤーの座から滑り落ちます。日本の主要な産業である自動車産業を維持しようとしたら、好む好まざると関係なく、自動運転車が主体となる交通システムを実現しないかぎり、国家の命運にも関わってくるでしょう。自動運転技術に係る人たちが予想するより技術が社会を変える日は近いのではないでしょうか?

自動運転車同士で情報交換を行い、最適な走行経路やスピードを選択できれば渋滞が最も少なくなる運転や地域全体の炭素排出量がもっとも少なくなるシステムが可能となります。またハンディキャップのある人や老人も自由に行動できるようなり、継続的な社会参加が可能になります。カーシェアリングも進み、個人が車を持たなくても、必要なときに必要なタイプの自動運転車を呼び出し、飲酒していても寝ていても目的地に送り届けてくれる未来も予想できます。現状からすれば荒唐無稽に思えるような夢物語を実現しなければ、少子高齢国家日本が今後、国際社会でプレゼンスを得ることは難しいと思います。
松本市が策定されている近未来交通システムや中心市街地の活性化計画には、国が提唱しているコンパクトシティや低炭素化社会化の概念が影響を与えていると思われますが、そもそものコンパクトシティの考え方は、都市の集積化、土地・建物の集約を行うことにより、自動車走行距離を短縮し、徒歩・自転車の移動手段への転換を図るというものだったと思います。
しかし松本市中心市街地の場合、松本城からの景観を守る目的で、厳重な高さ規制が行われており、そもそも中心市街地のコンパクト化は不可能になっています。市が策定され、実行している再開発計画では、博物館の移転と医師会館の移転等により中心市街地で500台程度の駐車スペースが失われるのではないでしょうか。

パーク&ライドの推進やタウンスニーカーの運行回数の増加等で、中心市街地への車の流入規制を行えば、駐車場需要の削減が可能であり、博物館周辺の渋滞も正月とお盆だけで済むと説明されていますが、本当にそうでしょうか?
自動運転車の普及により、交通手段の個人化は加速し、病院や買い物のために今より一人単位の車利用が進むと思われます。中心市街地における駐車場需要は増えることはあっても、決して減ることはないのではないでしょうか?

むしろ駐車場ビルの高層化や地下化等で駐車台数の集積を行い、今そこに見えている近未来の交通事情を考えた先進的な施策を考案し、効率化した交通システムによる老人や弱者の社会参加が実現できる経済特区を申請すべきだと考えます。

松本市が将来暮らしやすい街になるか、それとも交通渋滞と駐車場不足に悩まされる街になるか、今一度、市の慎重なご判断を仰ぐところです。
 
窪田裕一2018.8.26拝