2017年5月18日工事中
     №162 歯科診療室の循環器疾患(工事中)『戦争を知らない子供たち』が今や『戦争を知らない高齢者』の時代になっています。70年間の間に、少子高齢化が加速し、右肩上がりの経済成長モデルは破綻し、今や『黄昏の国・忘却の岸辺』になっていますが、少なくとも70年間、人命の犠牲と環境破壊の究極の姿である戦争を起こさなかったことは評価されていいことだと思います。

爬虫類の脳が生み出す怒りや恐怖や不安などの原始的な情動を、人類が進化してきた証である前頭葉がコントロールしているのが人間ですが、凄まじい衝動的な怒りは自分自身を破壊してしまい、完全なコントロールなど原理的に不可能です。
人間は笑う動物であると同時に怒りや悲しみに身を焼く不完全な生き物です。

現在の日本は『失われた20数年』の間に溜まった鬱屈が生み出す破壊的な衝動に身を焼いている状態と言えるかもしれません。
また意に添わぬ厳しい外部環境の変化が、花鳥風月を愛でる静かな隠居生活を許さなくなっている事態もあります。

いずれにしても、今そこにある『不愉快な事実(unpleasant truths)』に対し、我々の社会の前頭葉がまだ健全に機能し続けているのか、国家の動脈硬化が進み、致命的な認知症が進行していないのかどうか、合理的な判断と良識(reasonable judgment and good sense)が必要とされています。

戦前・戦後と日本が辿ってきた近現代史の再評価をもう一度、遥かな高みから俯瞰する目線で虚心坦懐に行う必要があります。歴史の検証は、他人に強制されて行うものでなく、プライドという名のバイアスをかけずに、あくまでも客観的にそこで行われた真実を学ぶべきです。往々にして歴史は後世の人間にとって耳障りがいい都合の良い解釈がなされ、誤った危険なプロパガンダに利用されるか、根拠のない優越感や未来を破壊する病的な怨念を生む毒薬になっています。

日本の低迷の原因は人口構造の成熟にあり、結婚や出産に対するモチベーションの低下にあります。経済的な困難と価値観の多様化のために、多くの若者が子供をつくることに積極的な意義と魅力を感じることができなくなっています。子供の生まれない社会を選択し、自分たちだけの瞬間的な幸せを追求する生き方もありますが、早晩、自分たちの老後を支える担い手がいなくなってしまいますし、価値や文化の継承も行われません。

まず子供を育てることに喜びとインセンティブを見いだせる社会システムに切り替えていく必要があり、人間の生理や感情の仕組みをもっと深く理解する必要があります。人間の持つ社会性と自由への憧れの、両者のアンビバレンツな構造が我々にもたらすものの意味をもう一度考えなおすべきだと思います。偉い人たちには、原始的で凶暴な衝動に流されない、人間性の尊重を基盤においた施策や『骨太の方針』を考えてほしいと思います。

いつか子供の笑い声に満ち溢れる街角が来ることを期待して、今日も地域歯科医療に取り組んでいきます。

 (参照文献及び引用文献/補綴臨床vol49 no.5 2016-9 p546 一部改変、リスク患者の歯科治療ハンドブック 小笠原正著、ブラウンワルド心臓病学ーレビュー&アセスメント/メディカルレビュー社、循環器疾患(第2版)山科章編集/日本医事新社、口腔インプラント治療指針2016、「心電図トレーニングブック」など)

〇心疾患治療薬が原因となる口腔内症状
 
 1)口腔出血   狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など動脈で起こる血栓症では、主に抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、チクロピジン、シロスタゾール、ベラプラスト、サルボグレラート、オザグレルなど)が使われ、人工弁置換術後、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など主に血流の乱れや鬱滞による血栓症では、抗凝固薬(ワルファリン:ビタミンK依存性凝固因子の働きを抑え、血液を固まりにくくする)が主に使われています。

 ・ワルファリンの副作用としては、頭蓋内出血、消化管出血、皮膚の内出血、アザ、血痰、鼻出血、月経過多、貧血、血尿、血便などの他に歯周ポケットからの出血、抜歯窩からの後出血、手術創からの大量出血などが起こることがあります。またワルファリンは抗生物質の多くや鎮痛剤でその作用が増強されます。ニューキノロン系、アジスロマイシン、メトロニダゾールなどでPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)の数値が有意に高くなります。鎮痛剤ではアスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム、メフェナム酸などほとんどの鎮痛剤がワルファリンの作用を増強します。また女性は男性よりPT-INRが高くなりやすく、感染症やがんでも凝固時間が延長します。逆にビタミンKを含む食品、つまり納豆、クロレラ、青汁、モロヘイヤなどはワルファリンの効果を弱くします。

 ・アスピリン:血小板を凝集させ、血管壁を収縮させるトロンボキサンa2はアラキドン酸カスケードにおいて、シクロオキシゲナーゼからつくられますが、アスピリンはこのシクロオキシゲナーゼという酵素の働きを抑えます。アスピリンの副作用としては、歯ぐきの出血、鼻血、皮下出血(青あざ)、血尿、アスピリン喘息、胃潰瘍などの消化管出血が起こることがあります。

 ・クロピドグレル(プラビックス)やチクロピジン(パナルジン):チエノピリジン系の抗血小板剤。虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、脳血管障害での血栓生成抑制並びに心筋梗塞予防に用いられます。血小板膜上のアデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12を阻害します。主な副作用としては、歯ぐきの出血、鼻血、皮下出血、血尿、月経過多、胃の不快感、かゆみ、下痢などです。

 ・シロスタゾール(プレタール):血小板または血管平滑筋のホスホジエステラーゼ(PDE3)の活性を選択的に阻害することで、抗血小板作用や血管拡張作用を発揮します。主な副作用は、歯ぐきの出血、鼻血、皮下出血(青あざ)、月経過多、頭痛、動悸、頻脈、ほてり感などです。

 2)歯肉増殖症 Ca拮抗剤などによる歯肉増殖  Ca拮抗剤:血管の平滑筋のカルシウムイオンチャンネルに結合し、細胞内にカルシウムイオンの流入を阻害します。Caイオンによる血管や心筋収縮を用量依存的に抑制し血管を拡張することにより血圧を下げます。Ca拮抗剤は以下の3種類に分類されます。

 ①ジヒドロピリジン系としてニフェジピン(アダラート)、ニカルジピン(ペルジピン)、アムロジピン(アムロジン、ノルバスク)などがあり、 血管拡張作用、降圧作用が強く、心筋への作用がほとんどありません。

 ②ベンゾチアゼピン系 ジルチアゼム(ヘルベッサーなど)

 ③フェニルアルキルアミン系 ベラパミル(ワソランなど)

 歯肉増殖はどのCa拮抗剤でも起こりますが、「週間医事新報No.4772(2015年10月10日発行)>臨床一般:歯肉増殖の副作用が少ないCa拮抗薬はありますか?日本大学松戸歯学部薬理学講座講師 松本裕子」によれば、ニフェジピンの発症率が最も高く、ニフェジピン投与者の6.3%で歯肉増殖が起きるそうです。また男性は女性より3倍の頻度で歯肉増殖が起こるそうです。

「歯科治療を受けたCa拮抗薬の服用者1533名を対象として,17種類のCa拮抗薬による歯肉増殖症の発生頻度を調査したところ,ニフェジピンの発症率が7.7%と最も高く,ついで,ジルチアゼム4.0%,マニジピン1.8%,アムロジピン1.3%,ニソルジピン1.1%,およびニカルジピン0.5%に認められました。」

 3)口腔乾燥症 利尿薬(ラシックス錠による低ナトリウム血症、ルプラック錠による低ナトリウム血症、ダイアート錠による低ナトリウム血症)や逆流性食道炎の治療薬のうちH2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)など。

 〇心拍出量(ml/分)=1回拍出量(ml/回)×心拍数(回/分)
 心拍出量(cardiac output、SV(Stroke Volume)):心臓の機能を示す指標として用いられます。安静時の成人の1回拍出量は約70ml、心拍数は約70回なので、心拍出量は4900ml、つまり安静時の成人毎分拍出量は5~6 L/min で、運動時には3~4倍に増加します。
心拍出量は体格が大きければ多くなるので、心拍出量を体表面積で除した心係数を用いて心臓のポンプ機能を評価します。
 体表面積は、いくつかの計算式で推定できます。 

デュポア式 = 身長0.725×体重0.425×0.007184
新 谷 式 = 身長0.725×体重0.425×0.007358
藤 本 式 = 身長0.663×体重0.444×0.008883  ⇒体重が70㎏で身長が180㎝の人の体表面積は1.83~1.93m2になります。

6ℓを体表面積で除すれば、3.28~3.10です。
ここで基準値は2.2〜4.5(L/分/m2)で、2.2(L/分/m2)以下ですと、心不全が疑われます。

 〇ANPとBNP ⇒心不全や閉塞性睡眠時無呼吸症候群で分泌量が上昇する可能性があります。

 左心室拡張期の血圧上昇に対するフィードバック: ナトリウム利尿ペプチドの機能としては、腎臓からナトリウムと水を排出させたり、血管の平滑筋を弛緩させたり、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系と呼ばれるホルモン系を抑制したりして体液や血圧の調節に重要な役割を果たしています。ANPとBNP以外にはC型ナトリウム利尿ペプチド(C-type natriuretic peptide;CNP)があります。

 年齢とともに睡眠構造は老化し、熟眠がむつかしくなります。若いころは一度寝込むと、なにがあっても目が覚めず、起床すればすべての疲れがとれてスッキリできるのがあたりまえだったのに、夜中にトイレに行くために目が覚めるのがふつうになっていきます。これは加齢とともに膀胱の容積が小さくなることもありますが、実は循環器系や呼吸の障害が原因になっていることがあります。

 心臓は全身に血液を送り出すポンプ機能を担っていますが、実は利尿ホルモンの分泌器官でもあります。

 ANP:心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide)体液量が増し、血圧が上昇し、心房が拡張するとき心房の細胞にある顆粒から分泌されます。①腎尿細管からのナトリウム再吸収を抑制します。利尿作用。②血管を拡張して血圧を下げます。③副腎皮質のアルドステロン産生と分泌を抑制し、血圧を下げます。

 歯科的に重要なことは、気道抵抗が増大しうまく息が吸えないとき、胸郭内が陰圧になり心房が膨らむと、その刺激で心房性特異顆粒からANPが分泌されることです。重症のいびき症や睡眠時無呼吸症候群で夜半にトイレにいく回数が増えてきた場合、気道が物理的に閉塞している可能性を考える必要があります。その場合C-PAPやスリープスプリントントの適用を呼吸器内科医と連携して考えます。

 ANPの基準値は43pg/mL以下であり、慢性心不全、慢性腎不全、本態性高血圧症、急性冠症候群、心房性不整脈、ネフローゼ症候群、肝硬変、妊娠高血圧症候群、甲状腺機能亢進症、原発性アルドステロン症、Cushing 症候群、SIADH、体液量増加、輸液過剰などで異常な高値を示します。

 BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide) 心不全などで心臓に負担がかかるときに心室で合成され、利尿作用を持っています。基準値は18.4pg/mL以下であり、心不全により速やかに増加し異常値を示します。100pg/ml以上の結果の場合は、心臓超音波検査などの精密検査が必要にあんります。心室から分泌されるのに、なぜ「脳性」と呼ぶかと言うと、最初に発見されたのが豚の脳を精製した試料からだったためだそうです。

 ・異常高値:慢性心不全、慢性腎不全、本態性高血圧症、急性冠症候群、心房性不整脈、ネフローゼ症候群、肝硬変、妊娠高血圧症候群、甲状腺機能亢進症、原発性アルドステロン症、Cushing 症候群、SIADH、体液量増加、輸液過剰

 ・異常低値:体液量減少、甲状腺機能低下症、副腎不全、尿崩症、褐色細胞腫

 〇 大動脈は弾性型動脈、中・小動脈は筋型動脈
 
 ・弾性型動脈(elastic artery):心臓に近い大動脈や肺動脈が該当します。内膜、中膜、外膜の3層からなりますが、中膜が厚みのある弾性繊維で構成され、心臓の強い拍出量に耐える構造になっています。

 ・筋型動脈(muscular artery):中膜の平滑筋が発達し、血液流量の需要に合わせて血管内径を変化させます。

 〇 カテコールアミンとα受容体とβ受容体:

 自律神経は、節前線維⇒自律神経節⇒節後繊維⇒効果器の構成を持ち、交感神経の細胞体は第1胸髄~第12胸髄(Th1~Th12)の側角(中間外側核)と第1腰髄及び第2腰髄(L1~L2またはL3)にあります。)
また、副交感神経の細胞体は第Ⅲ脳神経核(動眼神経)、第Ⅶ脳神経核(顔面神経)、第Ⅸ脳神経核(舌咽神経)、第10脳神経核(迷走神経と仙骨神経(S2~S4)にあります。

交感神経も副交感神経も節前線維と節後繊維の間の神経伝達物質はアセチルコリンです。交感神経の節後繊維と効果器の間の神経伝達物質は基本的にはノルアドレナリンですが、汗腺と骨格筋の一部の血管はアセチルコリンです。副交感神経の節後繊維と効果器の間の神経伝達物質はアセチルコリンです。

そしてノルアドレナリンの結合する受容体がα受容体とβ受容体であり、アセチルコリンの結合する受容体がムスカリン受容体です。

副交感神経のアセチルコリン受容体(コリン作動性受容体)は、ムスカリンが拮抗薬(アゴニスト)であるムスカリン受容体と、ニコチンがアゴニストであるニコチン受容体に分類されます。ムスカリン受容体が副交感神経の神経終末に存在し、副交感神経の効果器である脳や神経や平滑筋の活動を抑制します。さらにムスカリン受容体はM1,M2,M3,M4,M5に分類され、それぞれの効果器が異なります。

 副腎髄質ホルモンであるカテコラミン(カテコールアミン)、つまりアドレナリンやノルアドレナリンとドーパミンの作用は、ノルアドレナリン受容体であるα1受容体、α2受容体、β1受容体、β2受容体、β3受容体を介して発現します。同じカテコラミンであっても受容体により、アドレナリンとノルアドレナリンの作用の発現の強さは異なります。アドレナリンはα受容体、β受容体ともに強く作用しますが、ノルアドレナリンは主としてα受容体で作用を発現し、β受容体ではわずかしか作用しません。

 α1受容体は、ノルアドレナリンと結合し平滑筋を収縮させます。⇒末梢血管収縮
 α2受容体は、交感神経の終末か副交感神経の終末に存在し、ノルアドレナリンと結合するとカルシウムイオンチャンネルが開きにくくなり、細胞活動を抑制します。

 β1受容体は心臓の刺激電動系と心筋、心房筋に発現し、洞房結節を興奮させ心拍数を上げ、また心筋の収縮力アップに働いています。⇒心筋収縮増強
 β2受容体は、血管平滑筋、気管支平滑筋、子宮に発現し、腎血管拡張、気管支拡張、子宮の弛緩を起こします。また筋のグリコーゲンを分解します。
 β3受容体は、排尿筋と脂肪組織に分布し、膀胱平滑筋の弛緩による蓄尿と白色脂肪細胞の燃焼(脂肪の分解)にかかわっています。

 
α受容体とβ受容体
 受容体の種類  受容体の発現部位  役割
 α1受容体        血管平滑筋  α刺激で血管が収縮する
 瞳孔散大筋  α刺激で瞳孔散大筋が収縮する⇒縮瞳する
 内尿道括約筋  尿を溜めることができる ⇒蓄尿
 肝臓  グリコーゲンを分解し、血糖を上昇させる
 膵臓のβ細胞  インスリンの分泌抑制
 唾液腺  粘稠性の唾液を少量分泌させる
 脂肪細胞  脂肪の分解を促進
 α2受容体       交感神経の終末や副交感神経の終末/
中枢のシナプスの前膜と後膜
/α2A、α2B、α2Cに分類
     
 交感神経抑制作用:青斑核ニューロンの神経終末のシナプス前膜にあるα2A受容体に作用して、ノルアドレナリンの神経終末内の再取り込みを阻害することでα1作用に拮抗し、過剰な興奮を抑える。
 鎮痛作用:下降系疼痛抑制系において脊髄後角で二次侵害受容ニューロンのシナプス後膜にあるα2A受容体を刺激して興奮性シナプス伝達を抑制する。
 鎮静作用:青斑核のノルアドレナリン分泌を抑制し鎮静作用を示す。
 末梢血管収縮作用:血管平滑筋に存在するα2B受容体を刺激することで血管が収縮
 末梢の血流中の血小板を凝集させる。
 
 β1受容体  洞房結節、心筋、胃腸、脂肪細胞  心拍出力の増大、心収縮力の増大、消化管運動抑制、脂肪分解の促進
 β2受容体  冠血管、血管平滑筋、子宮平滑筋、気管支平滑筋、消化器平滑筋、排尿筋、毛様体筋、骨格筋、肝臓  平滑筋の弛緩、骨格筋や肝臓でのグリコーゲン分解を促進、肝臓での糖新生を促進
 β3受容体  排尿筋、脂肪組織、消化管、肝臓、骨格筋  蓄尿期に膀胱を弛緩させる、白色脂肪細胞で脂肪分解促進、褐色脂肪細胞で熱を産生させる


〇循環器疾患の種類
 
 1)不整脈(伝導系の異常):頻脈性不整脈、徐脈性不整脈

 2)弁膜症(弁の異常):大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧房弁狭窄症、僧房弁逆流症

 3)虚血系心疾患(心臓自体の栄養血管の障害):急性冠症候群(ACS:acute coronary syndorome不安定狭心症+急性心筋梗塞)、安定狭心症・無症候性心筋虚血、冠攣縮性狭心症

 4)高血圧(身体の血管の弾力の喪失):本態性高血圧、二次性高血圧 

 成人における至適血圧は、収縮期血圧が120㎜Hg以下かつ拡張期血圧が80㎜Hgです。診察室血圧における高血圧は、血圧の程度によって「Ⅰ度高血圧」「Ⅱ度高血圧」「Ⅲ度高血圧」と、拡張期の血圧は正常なのに収縮期血圧だけが高くなる「(孤立性)収縮期高血圧」の4種類に分けられています。孤立性収縮期高血圧は、動脈硬化が進んでいる高齢者に多い高血圧のタイプで、動脈硬化が進み血管の柔軟性が失われ、心臓から送り出される血液の勢いを大動脈の柔軟性で対応できなくなっていることを示しています。

 表1成人における血圧値の分類(㎜Hg)
分類    収縮期血圧と拡張期血圧  
 至適血圧    <120 かつ  <80
 正常血圧     <130 かつ <85
 正常高血圧 130~139または    85~89
 Ⅰ度高血圧 140~159または    90~99
 Ⅱ度高血圧     160~179または100~109
 Ⅲ度高血圧     ≧180または≧110
 (孤立性)収縮期高血圧      >140かつ<90

 血圧が高いほど脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、心筋梗塞、心疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全)、慢性腎炎、腎障害、腎不全などの罹患率や死亡率が高くなります。また、これらの高血圧の合併症があると手術時の血圧が著しく変動し、各臓器の重要な血管に障害が起こりやすくなります。歯科治療や口腔外科手術に伴う緊張や不安により、容易に患者の血圧は上昇し、高齢者などでは一度上昇した血圧がなかなか正常域に戻らないことがあります。また逆に急に立ち上がったときなどに起立性低血圧が起こりやすくもなり、診療室内での思わぬ転倒事故につながります。長時間の水平位での歯科治療が終了しチェアを起こす時、急に立ち上がる時には思わぬふらつきが起こることがあるので、介助者は転倒防止に留意する必要があります。
これは高齢者では、血圧の自動調節機能が衰えているために起こる現象です。

 5)先天性疾患:

 ①チアノーゼを起こす先天性疾患 

 ファロー4徴症(Tetralogy of Fallot;TOF)肺動脈狭窄・漏斗部狭窄、心室中隔欠損、右心室肥大、大動脈騎乗
 大血管転位症( Transposition of the great arteries, TGA)心房と心室の間の関係は正常に保たれているが、肺動脈が左心室に、大動脈が右心室につながってしまう疾患
 三尖弁閉鎖症(Tricuspid Atresia : TA)右心室と右心房の間にある三尖弁が閉鎖しておこる先天的な心疾患です。
 単心室(single ventricle, SV)胎生期の心臓発生過程における心臓の形成異常により右室または左室が非常に小さいか無いために、正常に機能する心室が一つしかない疾患です。
 肺動脈閉鎖(pulmonicregurgitation;PR)先天的に肺動脈弁が閉鎖し、心室中隔欠損症を合併していない状態。
 総動脈幹残遺症(persistent truncus arteriosus PTA)大動脈と肺動脈が合わさり、総動脈幹という1本の太い血管となっている疾患。

 ②非チアノーゼ群

 心室中隔欠損症(Ventricular septal defect;VSD)代表的な先天性心疾患の一つで1000人に3人の割合で出生し,うち約半数は生後1年以内に自然閉鎖することが知られています.
 心房中隔欠損症(atrial septal defect;ASD)心臓の右心房と左心房を隔てる心房中隔に穴が開いた病気。
 心内膜床欠損症( endocardial cushion defect;ECD)⇒房室中隔欠損症(atrioventricular septal defect/AVSD)心内膜床の発達障害により、左心房・左心室・右心房・右心室の間を隔てる各種の構造組織に欠損が生じる疾患。
 動脈管開存症(patent ductus arteriosus; PDA)出生後動脈管が閉鎖しなかった結果として生じる先天性心疾患。
 肺動脈弁狭窄(pulmonary valve stenosis;PS) 肺動脈弁の狭窄を原因とする右心室からの血液流入を呈する心臓弁膜症。この結果、肺への血液流量が減少する。
 大動脈弁狭窄(Aortic valve stenosis;AS)大動脈弁口の狭窄によって全身に血液が送り出されにくくなる疾患である。

 5)その他の疾患 心肺停止、心筋症、心筋炎、心膜炎、感染性心内膜炎、大動脈疾患、閉塞性静脈疾患、肺高血圧症、川崎病後遺症、心臓神経症、閉塞性動脈疾患、睡眠時無呼吸症候群など


 右冠動脈(RCA:right coronary artery) 
 左冠動脈は左冠動脈主幹部(LMT:Left main trunk)から左前下行枝(LAD:left left anterior descencing coronary artery)と左旋回枝(LCX:left circumflex coronary artery)に分かれる。左心室は全身に血液を送る必要があるので、左冠動脈が特に重要です。

〇患者さんが胸痛を訴える時: 緊急性の高いケースとしては心筋梗塞(myocardial infarction:MI)、肺塞栓症pulmonary embolism:PE)、大動脈解離(aortic dissectin:AD)、弁膜症(大動脈弁狭窄症aortic stenosis:AS)などが挙げられます。 



 〇レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 
]


 根管治療の成功率は1回目が90%以上ですが、再治療になると50%まで低下すると言われています。ましてや3回目、4回目となるとさらに治療の成功率が下がります。再治療になるほど、根管内異物やレッジ、毒性の強い細菌叢、根管の穿孔・亀裂が起きている可能性が高く、特に上顎第一大臼歯で歯根が上顎洞内に突出している歯の再根管治療は困難になります。根管内が無菌的になれば根尖病巣は消退するのですが、病巣が大きい場合や、糖尿病や腎不全、重度の貧血や夜間勤務などハードな仕事のストレスに負けている場合は、宿主の防御力や創傷治癒能力の低下のために治りにくくなります。必ずラバーダムを装着して、次亜塩素酸ナトリウムで根管を満たしながら操作し、超音波洗浄をていねいに行い、仮封を厳密に行い、根尖を壊さない、根管充填剤を逸出させない、ファイルのテーパーより大きなテーパーのガッターパーチャーポイントを充填するなどの注意が必要です。オブチュレーションガッターなどノンシーラーの根管充填の10年以上の経過症例の成功率は、ガッターパーチャーの経年収縮のためにコロナル・リーケージを起こしやすくなるため低下していきます。ホルマリン系の根管消毒剤は患者さんの安全のために使うべきではありません。接着剤系のシーラーは再根管治療が行いにくいことが最大の欠点です。どんなに完全な根管治療を行なっても、再治療が必要な場面は必ずやってきます。接着剤で固めた大臼歯の弯曲根管をどうやって再治療するのか?誰か教えてほしいと思います。医療に完全な成功はなく、患者さんの寿命が有限であるから、たまさかその期間に症状が表れないだけにすぎません。この宇宙に崩壊しないものなどありません。リカバリーのことを考えない治療など奢りにすぎないと考えています。ニッケルチタン系のメカニカルな拡大はあまり信用していません。最終的には目視と根管の解剖学的な構造の把握と手指の感覚です。どうしてもだめな場合は根尖切除術や再植法や矯正学的な歯牙移動にかけるしかありません。幸い、最近は自家フィブリンを併用することにより外科的根管治療の成功率が上がっています。
 あとは患者さんの余命やライフスタイルを考えた治療法の選択が必要です。75歳以上の基礎疾患を持つ患者さんで、近い将来通院が困難になることが予想される患者さんに20代の患者さんと同じ治療をしますか?あるいはこれからナイジェリアに3年半単身赴任する患者さんに、成功率が50%の治療を勧めますか?自覚症状が表れたときに、すぐに通院できる患者さんとできない患者さんでは、当然治療選択肢が異なってきます。ホームケアや定期検診が忙しくて行えない患者さんに高額な自費診療を勧めますか?開業医が生き延びるコツはこの辺りにあるのではないでしょうか?