2016年1月17日更新
     157「根面むし歯を追放しよう!」 

 
根面むし歯を予防しよう!

 冠やブリッジ、ラミネートベニア、インプラント治療などの補綴治療を行った、そのときが、治療した歯科医にとって、患者さんの全身状態が一番良好な瞬間になります。

 加齢とともに必ず患者さんの予備力は低下し、就寝中の唾液の分泌量は減りやすく、睡眠構造は劣化し、免疫力や創傷治癒力は低下し、予備力は低下し、胸腺は脂肪化し、骨質は劣化し、骨密度は低下し、歯肉は退縮して歯根が露出します。
露出した歯根の表面は薄いセメント質が歯ブラシで削り取られ、象牙質が露出します。エナメル質は無機質が96%でヌープ硬さが431、臨界PHが5.5なのに対し、象牙質は無機質が66%、有機質が18%、水分が12%、ヌープ硬さはわずか68でPH6.2〜6.7で脱灰してしまいます。つまりミルクを入れない紅茶のPHが5.0なので、クエン酸を含む飲み物や果物で脱灰し、粗造になった表面にActinomyces属やS.mutansやS.sobrinusなどが増殖し、歯根のむし歯が進行してしまいます。

 古来死なない人間はいないわけで、例え10年保障や永久保証を契約書で約束しても、基礎疾患が進んだり、投薬内容が変わったり、脳梗塞でプラークコントロールが破綻したり、あるいは強い精神的ショックやうつや統合失調症になった場合でも、簡単に歯科治療結果は崩壊していきます。
したがって定期検診とメインテナンスは絶対必要ですし、晩酌や喫煙の制限、甘味制限、酸性食品の摂取後の唾液の中和、噛みしめ対策など、様々の口腔ケアを駆使して治療結果の保持に努めることになります。
晩酌をすれば、口腔内のカンジダ菌がアルコールを分解して、毒性の強いアルデヒドをつくります。喫煙でもアルデヒドを摂取することになります。一日に1回だけしか歯磨きをしない人は、起床時と就寝前に歯磨きをする習慣のある人に比べ、1.43倍口腔がんや食道ガンになりやすいという報告があります。
どんな清楚な美人でも、一晩寝て起きれば、口の中は細菌で一杯になり、ふつう起床時には便10グラム分の細菌が溜まっています。<br>
 朝食と一緒にそれを飲みこんで、胃液の塩酸で殺菌しているわけで、プロトンポンプ阻害薬を内服し、胃液分泌が抑制されていれば、口腔細菌は死滅せずに十二指腸と小腸に侵入していきます。日中は食事の度に口腔細菌が少なくなるチャンスがあるので、実際にむし歯や歯周病は就寝中に進行します。特に口呼吸のある人では唾液が蒸発するため、自浄性が低下し、歯垢がつきやすくなります。下顎前歯の舌側に歯石のつきやすい人、タバコを吸わないのに上顎前歯の口蓋側にステイン(ワインやコーヒーによる着色)がつきやすい方はまず口呼吸を疑いましょう。いびきを掻く疑いのある人は、ほとんど口呼吸をしています。

 それ故、就寝前の歯磨きは特に重要で、このとき通常の歯磨きを行った後に、デンタルフロスで歯間部の歯垢を取り除き、充分な水でよく漱ぎ、次に研磨剤の入っていないフッ素含有ペーストやフッ素含有フォーム(泡)を歯ブラシにつけて、二度目の歯磨きを行います。その後、大さじ1杯分だけの水で5秒間だけ1回だけさっと漱ぎます。意図的に口腔内にフッ素を残したまま就寝するダブルブラッシング法は、今のところ、最も効果のある根面むし歯防止法です。インプラントに使われているチタンは高濃度のフッ素で腐食しますが、日本国内で販売されている歯磨剤は法律で1000PPM以下に規制されているため、腐食することはありません。

 幾ばくかの無機質と蛋白質と水溶液と記憶から構成されている人間は、時間とともに肉体も精神も必ず壊れていきます。宇宙の年齢に比べれば、ほんの刹那、限られた人生の期間だけ、エントロピー増大の法則に逆らって、人間というシステム系の安定を助けるのが医療の役目です。そう思えば、自分という複雑系の管理者として、精一杯の手段をつくして、自分自身を慈しむことの目的や意義が理解できるような気がしませんか?