№138「HATASAKA SPLINTの実際(顎関節症のある矯正における簡単なテクニック)」(Seven Fundamentals to Achieving Excellent Clinical Resultsから翻訳・引用しました。)

本文へジャンプ 9月3日 
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 №138「HATASAKA SPLINTの実際)」

  
(顎関節症のある矯正における簡単なテクニック



Dr.ハリー・ハタサカは、あなたの一日を台無しにすることがありうる、慢性顎関節症患者という骨の折れる患者を治療することに、彼の臨床の大きな部分を捧げてきました。

一般に顎関節症患者の治療には次のものがあります。

・ 理学療法
・ スプリント療法
・ ストレス・マネージメント

このレクチャーに於いて、彼は装置の製作法と臨床応用について論じています。

スプリントのデザインに関して様々の意見がありますが、どの方法にもあまり確かなエビデンスはありません。
スプリントが顎関節症を治療できるという明確なエビデンスも存在しません。
けれども私達は皆、パラファンクションが歯を痛め、時には歯冠破折を招き、歯の喪失に結びつくことに気づいています。パラファンクションはまた歯槽骨の喪失に関係があります。

多種のスプリントのいくつかを提示します。

・ 前方整位型スプリントAnterior repositioning splint
・ 咬頭嵌合位―中心位スプリントCO-CR splint
・ ゲルブスプリント(今まで発表された中で最も有害な装置、24時間装着し前歯の挺出を起す)Gelb splint
・ ロンドン・ダブルデッカー London double decker 上下の歯列に適合したスプリントを24時間使用します。
・ ソフトスプリント Soft splint
・ Upper vs. lower 上顎スプリント派、下顎スプリント派

臨床家は長期間使用による副作用がなく、そしてブラキシズムやクレンチングやclamping(クランピング、噛みしめ、締めつけ)からのダメージを予防するスプリントを長い間求めてきました。

ハリーの普遍的な基準は、あらゆる偏心運動時の干渉を排除した下顎のフルスプリントです。それはすべての臼歯のバーチカル・ストップを有し、上下前歯部の接触(とガイダンス)がありません。

最初、この下顎スプリントを、繰り返し再現が可能な中心位に咬合が安定するまで(3~4ヶ月)、食事や清掃以外の24時間フルタイムで装着します。
ハリーによれば、中心位接触は1~2mmの範囲で接触すれば良く、一点に収束しなくてもかまわないそうです。彼は聴衆に、スプリントの製作手順について、大変洗練されたイメージを用いて説明します。

1. 下顎のアルジネート印象を行い、印象にGCのニュープラストーンを注入します。この石膏は通常の矯正用石膏よりわずかに膨張します。その結果、スプリントがきつくなりすぎることがありません。バッファロー・デンタル製のブロックアウト材でアンダーカットを埋めます。
2. 2mmまたは3mmのバイオクリル(biocryl:グレイトレイクス・オルソドンティック・ラボラトリー)を用い、バイオスター(Biostar)で模型に合わせて形成します。唇舌側の縁を歯冠の輪郭に一致させてトリミングします。

3. ゆるく練和したメタクリレート(即時重合レジン)でバーチカル・ストップを適合させます。

4. スプリントの大臼歯から犬歯にかけて、咬合面表面にQ-tipでモノマーを塗ります。

5. どろっとしたアクリリックレジンの混合物をつくり、第一大臼歯から犬歯にかけてのスプリント表面に塗ります。このとき、大臼歯部より小臼歯部に厚く盛ります。メタクリレートがゲル状になるまで圧力鍋に数秒間入れますが、印記できる程度に十分に柔らかくなければなりません。
6. スプリントを患者の口の中に装着し、4つの頭位で柔らかいレジンに対合歯を接触させるように頼みます。
まず頭を後方へ傾け、次に右側へ傾け、左側に傾け、前方に傾けます。再び圧力鍋に入れて最終重合させます。すべての上顎舌側咬頭の接触点にペンで印をつけます。
それからバイオクリル表面の印記点以外のすべての余剰レジンを削りとります。それから研磨します。
患者には、清掃や食事以外は24時間スプリントを装着するように指導します。例え、患者が一箇所でしか噛めないと文句を言っても、患者にハタサカスプリントを渡したその日に、セントリックコンタクトを研磨しようとしてはいけません。

患者には症状が悪化するかもしれないことと、筋肉が張り、咬み合わせが変わるかもしれないことを説明しておきます。

7. 1~2週間後に、次の予約を約束します。Kerrのオクルーザル・インディケーター・ワックスで表面を覆い、患者に4つの頭位でワックスをタッピングするように頼みます。最初のフォローアップ・アポイントメントでは、筋肉の固着を反映してワックスの印記点は混乱しています。
すべての接触点をペンで印記し、すべての頬側咬頭による印記点を取り除きます。2~3ヵ月後には、接触点が安定してきます。4つの頭位ですべての舌側咬頭の印記点が1点に収束してきます。
この時点で患者に、就寝中だけスプリントを装着するように指導し、次第に接触点を小さくしていきます。

8. ブラキサーはスプリント上に痕跡を残すようになり、Clamper(クランパー:強い噛みしめ者)は咬頭嵌合位のマークを残します。舌や頬の圧痕はブラキシズムやクレンチングの明白な標識になります。

9. フォローアップにおいて、スプリントが薄くなった場合、スプリント表面への再度のレジン添加が必要になるでしょう。

Dr.ハリー・ハタサカはこの装置にはアンテリア・ガイダンスが必要ないと言っています。
現在の研究によれば、歯牙が接触しないとき、ただちに下顎の平行移動が起こることが分っています。アンテリア・ガイダンスの必要性を補強するエビデンスはありません。

それゆえハリーは偏心位の干渉やガイダンスがなく、すべての臼歯のセントリック・ストップを持つフラットな平面によりスプリントをシンプルなものにしました。

フルタイムでこのスプリントを装着したとき、患者の上顎前歯が挺出するのではという質問に対して、彼は挺出しないと言い、なぜなら正常な咀嚼運動の間はこの装置を使わないからと説明しています。ハリーの意見では、咬合に病理的な問題があるとき、典型的には顆頭は関節窩の後方にあり、臨床家は中心位を同定することはできません。
病理的な問題がなければ、中心位の位置を定めることは可能になりますが、中心位は一日を通してダイナミックに変動します。

Dr.ハリー・ハタサカは長期間使用できる安定したスプリントの簡単なテクニックを提示しました。