№132「Clear and Present Danger」歯科医療の新型インフルエンザ対策


本文へジャンプ 12月25日 
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 №132「Clear and Present Danger」歯科医療の新型インフルエンザ対策




 急速に進む世界恐慌への不安、つるべ落としに悪化する実体経済、金融資本主義の終焉、政党政治の機能不全、テロリズムの脅威、地球温暖化、食の安全性への不安、医療におけるフリーアクセスの破綻など、私達の目の前に立ち塞がる「今そこにある危機Clear and Present Danger」の闇は深く、広い。

 それに加えていよいよ秒読み段階に入りつつある新たな危機が「新型インフルエンザの世界的流行爆発(パンデミックpandemic)」です。

感染力の強い新型インフルエンザの恐怖については、過去にこのブログでも取り上げましたが(⇒http://naganokenshi.blogspot.com/2008_01_01_archive.html)、もし明日、自分の属する広域医療圏の中で新型インフルエンザの感染者が発生したら、私達はどう行動すべきでしょうか?

○ 新型インフルエンザに対する歯科医療ガイドライン

不特定多数の患者さんが訪れる歯科医院で新型インフルエンザの感染から、患者さんと医療従事者を完全に守ることは事実上不可能です。

もし感染予防を完全に行なおうとすれば、宇宙服のような感染予防体制を整えるしかなく、手術室並みの隔離診療室と消毒・滅菌体制を準備しなければなりません。

単に手洗いや高機能マスクやフェイスシールド、グローブや通常の消毒・滅菌体制だけで診療を行ない、万が一、患者さんや勤務しているスタッフが飛沫・空気感染した場合、管理者として言い訳をすることができません。

社会全体がパニックに陥ることが予想され、感染拡大の最初の5~6週間は、事実上、地域の歯科医療が機能しないだけでなく、通常の経済活動は停止する可能性すらあるものと思われます。

最悪の場合、行政や教育機関、報道機関、病院、診療所、交通機関、金融機関など社会を構成するファンダメンタルの大半が機能不全に陥り、社会が「停止」してしまう可能性があります。

おそらく市井の歯科医院の多くは余儀なく閉鎖することになり、辛うじて診療を続ける特定の医療機関にたくさんの患者さんが集中する懸念があります。

もし、緊急の患者さんだけを受け入れようと思っても、歯科医院に勤務するスタッフがまず出勤してこないか、交通機関などの混乱のために出勤できない可能性もあります。

つまり、平時の歯科医療と異なる、新型インフルエンザウイルスと闘う戦時の歯科医療が必要となります。

新型インフルエンザに本当に有効なワクチンが開発・配布されるまで6ヶ月はかかるものと予想され、その間は備蓄してあるタミフルに頼るしかありません。そのタミフルも本当に有効なのかどうなのかも本番になってみないと分りません。

本当に安全に診療できるようになるには、新型インフルエンザに感染し、運よく生き延びて体内に免疫を獲得した者が診療にあたるか、ワクチンにより免疫を獲得するまで待つしかなく、あるいは感染の危険を承知で緊急性のある患者さんだけを歯科医師一人で診療するかしかありません。

歯科材料店や技工所、医薬品問屋、酸素や笑気などガス納入業者なども通常のサービスを停止してしまう可能性がありますから、備蓄してある医薬品や材料がなくなったら、もうそれで診療することはできなくなります。

この空白の6ヶ月間の地域歯科医療をどうするべきか、行政や大学病院、医師会・薬剤師会、有識者とともに緊急時の歯科医療体制ガイドラインを作成する必要があります。(緊急時の医科医療体制と協調する形で)

危険を承知で診療にあたる歯科医師と歯科衛生士、歯科技工士などのコデンタルスタッフを登録し、新型インフルエンザに対する免疫を獲得した群と未獲得の群に分けてリアルタイムで管理するシステムをつくり、緊急連絡網を構築し、医薬品や衛生材料、歯科材料やタミフル、食糧などを備蓄した施設を確保し、具体的な診療手順や患者さんへの対応、医療従事者が感染した場合の標準的対応も検討する必要があります。

いわば「戦場における緊急歯科診療室」のような態勢を検討する必要があります。

現実には家族や自分自身が発症し、戦線を離脱する場合が予想されますが、例えばむし歯や歯周病などの歯科疾患でも医療を受けないまま放置すれば、生命にリスクが及ぶ場合がありますので、最低限の地域歯科医療は確保する必要があります。

現実の壁は厚く高いですが、何もやらないよりはまず行動を開始する必要があります。

患者さんの立場から考えた場合、明日にもしパンデミックの第一報が報道された場合、今日と同じ歯科医療を受けられるとは限らなくなります。

新型インフルエンザのパンデミックが起き、地域における通常の歯科医療が停止したとき、放置していたむし歯や歯周病がもし激しい急性発作を起したら大変なことになります。

普段から歯科疾患に気がついたら、なるべく初期のうちに治療をしておくこと、経済的にも体力の面からも「予備力(Preliminary power)」を蓄えておくことが厳しい時代にサバイブするためのひとつの条件になるものと思います。