歯科診療室の病態生理学メモ 顎骨内にみられたX線不透過性病変の1例
     松本歯科大学 歯科放射線学講座
                          永山哲聖 塩島 勝
         



X線写真で根尖部に白い影が見られたとき、その処置をどうしたら良いのか判断に困ることがあります。
患者は62歳、女性で初診時に、下顎左側第一大臼歯の疼痛を主訴に来院しました。腫脹、圧痛等は認められませんでした。そこで口内法X線撮影を行いました(写真1)。根尖部に境界明瞭なX線不透過像を認め、その根尖部の画像診断について、研修医と放射線科医とのQ&A方式でまとめてみました。

放射線科医:どうしましたか?
研修医:分からない症例があるのですが。
放射線科医:どのような症例ですか?
研修医:左下第一大臼歯の根尖部に白い部分があります。
放射線科医:根尖部との関係は?また形態や周囲との関係はどのようになっていますか?
研修医:歯根膜腔の連続性は認めます。また、形態は不
定形で、白い部分の周囲に透過帯を認めます。
放射線科医:白い部分ではなく、不透過像と表現しましょう。
研修医:分かりました。
放射線科医:最終的な所見としては、左下第一大臼歯部の近心遠心根の歯根膜腔の連続性が見られ、その周囲に不定形の不透過像を認め、さらに不透過像の周囲に透過帯を認めるが、その他の部位には何か異常はありますか?
研修医:口内法X線写真では、これ以上の範囲の観察は無理です。
放射線科医:もう少し広い範囲から観察するためにパノラマX線写真を撮りましょう(写真2)。
研修医:はい。分かりました。
放射線科医:パノラマX線写真の所見をいってください。
研修医: 右下臼歯部、左下臼歯部に、境界明瞭で不定形で不均一な不透過像を認めます。
放射線科医:さらに、右上臼歯部にも境界明瞭で不定形で不均一な不透過像を認めますよ。
研修医:気付きませんでした。
放射線科医:診断は全体的に観察してから、局所的に観察しましょう。拡大するのもいいですよ(写真3,4)。
研修医:大学では両側性の疾患は珍しいと習いましたが
どうですか?
放射線科医:両側性の疾患は珍しいです。また、上顎にも同様な不透過像を認める症例は非常に珍しいです。
研修医:根尖部の不透過像は初めてみましたが、よくありますか?
放射線科医:通常根尖部の病変と言えば透過像が主で、不透過像は珍しいです。家族歴には、何か問題はありましたか?
研修医:家族歴の問診までは行っていません。
放射線科医:そうですか。家族歴の問診は行ったほうがよかったですね。
研修医:分かりました。でも、画像診断名は何を挙げますか?
放射線科医:骨由来の疾患ではなく、セメント質由来の疾患を考えるべきです。
研修医:どうしてですか?
放射線科医:不透過像と歯根との間に歯根膜腔を認めるからです。ただし、骨とセメント質との区別は困難です。
研修医:分かりました。処置はどうしたらいいですか?
放射線科医:急性症状がないならば経過観察がいいと思いますよ。
研修医:分かりました。
放射線科医:基本的に診断名も大事ですが、その前の段階のX線写真でどの部位に着目するかが大切です。



(写真1:口内法X線写真)
(写真2:パノラマX線写真)
(写真3:パノラマX線写真上顎右側臼歯部)
(写真4:パノラマX線写真下顎右側臼歯部)