お口の話 歯のハナシへ戻る

学術研修の記録 

主催:松本市歯科医師会 
共催 サンメディカル株式会社

期日:平成16925日(土)午後230~530

場所:松本市歯科医師会会館3Fデンタルホール

平成16年度第二回松歯臨床座談会

 

講演:接着から考える齲蝕治療と修復処置

−接着が教えてくれた最も大切なこと−

 

講師:安田登 先生 第一生命保険日比谷診療所歯科医長
                東京医科歯科大学歯学部臨床教授

深川優子 先生 第一生命保険日比谷診療所主任歯科衛生士

司会・座長 藤森清一 

Coordinator KUBOTA HIROKAZU


参加人数 歯科医師31名 歯科衛生士16名

キーワード:人工エナメル質齲蝕は傷であり、上皮(人工エナメル質)で覆う必要がある。SBコート。齲蝕治療のクリニカルパス。

内容:歯科医療の目的を考えるとき,表現の方法こそ違え「小児から成人に至るまで健全な歯列を育成し国民の健康に寄与する」ことに異論はないであろう.目標値として80歳で20本の歯を有する「8020運動」を掲げ,厚生労働省と歯科医師会が一丸となって行っていることは周知の事実である.

歯を失う原因の多くは齲蝕と歯周病である.歯周病は原発性のものもあるが,齲蝕治療に継続する修復処置が引き金になるものも見受けられる.この2大疾患の予防には共にセルフケアとプロフェッショナルケアによるプラークコントロールが有効とある.そうするとまずは齲蝕さえ撲滅されれば,歯を失う原因が大幅に減少すると考えてもよい.

ところで齲蝕は疾病であろうか,それとも障害であろうか.疾病は症状が非固定的で治療可能なもの,障害は症状が固定的で治療が不可能なものとされている.齲蝕について考えてみると齲蝕原因菌が齲窩に存在し,酸を発生して脱灰が進行している状態ならば,これは症状が非固定的であるから疾病である.しかし,感染歯質が除去,あるいは無菌化されれば,そこに取り残された歯の実質欠損は障害とみなす方が妥当である.

つまり齲蝕は「疾病」と定義される段階と,「障害」に属する段階との2相にわかれた疾患と捉えることができる.疾病と障害,それぞれの段階では当然のことながら考慮すべき点,目的,方法などが異なる.前者の疾病状態には「医療モデル」で治癒を目的とし,後者の障害には「生活(QOL)モデル」で,患者の生活の質の向上を第一に考えて処置することが望ましい.そしていずれの段階においても接着は非常に効果的である.すなわち前者の疾病としての齲蝕治療では,感染歯質除去,無菌(寡菌)化後の創面封鎖に,樹脂含浸層(人工エナメル質)を伴う「超接着」が,そして生体侵襲を最小限に考えた修復処置には「接着」が再び威力を発揮すると考えられる.

しかし,一方でどんなに接着技術が向上しても天然の歯にかなうべくもないことも明らかである.30年にわたって接着歯学に携わってきたが,接着が教えてくれた最も大切なことは,健全歯,とくにエナメル質の重要性という極めて当たり前のことを再認識させてくれた点にあるのではないかと考えている.